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盲獣VS一寸法師(2001年、日本)

監督:石井輝男
出演:リリー・フランキー、塚本晋也、平山久能、リトル・フランキー、藤田むつみ、橋本麗香
原作:江戸川乱歩「一寸法師」「盲獣」「踊る一寸法師」
備考:カルト映画

あらすじ…売れない小説家の小林紋三は、浅草レビューのスター・水木蘭子の舞台を見に行くが、隣に座った男はなぜか終始俯いたままだった。そしてその帰り道、紋三は女の生腕を持った一寸法師に遭遇する。

 本作品は江戸川乱歩の小説「一寸法師」と「盲獣」を合わせたもので、光文社文庫版の江戸川乱歩全集では、「一寸法師」は第2巻、「盲獣」は第5巻に収録されています。近所の図書館でちょっと探したら光文社文庫版の江戸川乱歩全集があり、第2巻と第5巻を借りて両作品を読んでみた次第です(このページは映画作品をレビューするところですので、小説作品のレビューはページを改めて行なうことにします)。尚、このページで引用される「原作」は全てこの光文社文庫版です。

 さて、この作品の舞台となったのはいつの時代でしょうか?
 原作の「一寸法師」は、

 日刊紙「東京朝日新聞」(朝日新聞社[初])に大正十五(一九二六)年十二月八日から翌昭和二年二月二十日まで六十七回、「大阪朝日新聞」([大])に昭和二年二月二十一日まで六十六回、おりおり休載を挟み並行掲載された。(P699、『江戸川乱歩全集 第2巻 パノラマ島綺譚』光文社)

 一方、「盲獣」は、

 月刊誌「朝日」(博文館[初])に昭和六(一九三一)年二月から翌七年三月まで連載されたのち(昭和六年八月、十一月、十二月は休載)、昭和七年三月、平凡社版『江戸川乱歩全集』([平])の第九巻として刊行された。(P627、『江戸川乱歩全集 第5巻 押絵と旅する男』光文社)

 とあるので、映画の舞台は大体のところ大正末期~昭和初期の東京だということがわかります。シャーロッキアンなら細かな事象を取り上げて、もっと厳密な年代測定をやるところでしょうが、私はそこまでやらずとも、おおよその時代がわかればそれで結構と思っています。
 で、このインディーズ映画は低予算の中でその時代っぽさを映し出すのに苦労している跡が見え隠れしました。例えば建物や街灯にしても、明らかに戦後にしか存在しない様式が映像の中にあったらいけない。そのため、街の中でのシーンは不自然なアングルが見受けられます。大きなセットを組めばその問題は解決されるかもしれませんが、インディーズ映画にそんな予算はないのでこうなったのでしょう。

 ところで、明智小五郎はなぜかチャイナ服を着ていますが、その疑問は原作を読んで氷解しました。原作「一寸法師」によるとこの時の明智小五郎は上海帰りであり(なぜ上海に行っていたかは不明)、このチャイナ服(原作では「支邦服」と表記)は「上海から持って来た」(P526)とのこと。
 又、明智小五郎は一寸法師に対して大捕物を展開するなど色々と活躍を見せているのですが、一方の盲獣に対してはさしたる活躍をしていません(殺人防御にも失敗している)。なぜこうなったのかというと、原作の「盲獣」に明智小五郎が全然登場しないからです。かの素人探偵を縦横無尽に活躍させたければストーリーを大幅に改変する必要が出てきますが、さすがにそれはしなかったようです。
 ただ、結末は少し変えてあります。ここから先は少々のネタバレになるので、まだ知りたくない人は読み飛ばしてください。
 盲獣が最後に作った「芸術作品」は、原作では展覧会に展示され、世間の注目を集めるのですが、この映画では「こんなものは芸術ではない!」と否定されて叩き壊されています。
 なるほど、倫理的なところで踏みとどまったな、と感じました。やはりそうでなくては救いがありませんから。

 さて、最後に出演者の演技について。主演のリリー・フランキーのセリフが棒読みなのは、彼が俳優ではないというとで大目に見るとしましょう。
 又、一寸法師を演じたリトル・フランキーは、リリー・フランキーよりも幾分上手ですが、セリフが棒読みになっているところが見受けられました。とはいえ、自らの身体の劣等感コンプレックスを語るくだりは、本物の身体を持つだけに凄味が感じられます。
 一方、盲獣を演じた平山久能は怪演が光っていましたな。例えば美術館で水木蘭子に握手を求めるものの逃げられてしまった時に、泣いているのか笑っているのかわからない声を上げているところは実に不気味です。又、水木蘭子から顔にツバをはきかけられた時、手でそのツバを拭ってペロペロと舐めるくだりも変態的で面白かったです。

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