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松岡和子訳『ヘンリー六世 全三部』筑摩書房(2)

 今回取り上げるのは、ヘンリー五世(ハル)の葬儀から百年戦争の終結までを描いた第一部。
 ここでは、フランス救国の英雄ジャンヌ・ダルクが登場します。ただし、シェイクスピアはジャンヌをヒロイックに描くのではなく、逆に悪く描いています。
 例えば第五幕第三場では戦闘中に悪霊を呼び出していますが、これは魔女の行為そのものです。又、第五幕第四場では処刑直前に「自分は妊娠中だから、出産後まで処刑を延期してくれ」と嘆願し、腹の子の父親としてアランソン、次いでレニエの名を挙げて「聖処女」のイメージをブチ壊しています。
 フランス人にとっては、このようなジャンヌ・ダルク像は噴飯ものでしょうが、イギリス人にとっては、せっかく苦労して切り取った領土を奪った憎っくき仇敵。悪し様に描写しておくことによってイギリス人の観客は溜飲を下げたのではないでしょうか。

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