無能だけれど有徳の人、乃木希典の評伝。
「無能」については旅順の戦いを参照すればよいとして(本書でも割かれている頁数は少ない)、では「有徳」とは? 本書のP126-128に短いエピソードを連ねた文章があるので、少々長いですが引用します。
もちろん、乃木の努力は軍服だけではない。
料亭、芸妓を遠ざけたという話はすでにした。
生活をとことん質素にした。
家での食事は、稗飯だった。
客が来れば、「御馳走だ」と云って蕎麦を振舞う。
軍務についている時には、兵隊と同じものを食べた。
特別な食事を供されると、食べずに返した。
田舎親父が、好意で用意してくれたものは、喜んで食べた。
宿で、畳に直接軍服で寝た。
煙草は一番安い「朝日」だった。
自動車には乗らなかった。
雨でも、馬にのった。
傘をささずに、豪雨の下を歩いた。
負傷兵に会うと、どんなところでも馬を下りて、「ご苦労だったなあ」とねぎらった。
夏でも蚊帳を使わなかった。
身の回りのことはすべて自分でした。
従卒や副官の手を煩わせなかった。
乃木は質素と倹約は、違うということを常に説いている。
もちろん、物品や水、燃料、電気などを無駄に費やすことは忌むべきことである。
けれども値切って買ったり、安いものを探してまとめて買うことは、質素ではない。
質素は、金を貯めることを目的としない。
乃木はむしろ、浪費家と呼ばれるべき人物である。
感心した古典籍があると、自らの手で翻刻したものを知友に配ってしまう。
旧乃木邸の厩舎は、堂々たる煉瓦作りで、自宅より立派だと云われた。
馬を可愛がった。
長年仕えた馬丁に年金がつかなかったので、毎年、年金にあたる分の金を送ってやった。
怪しげな依頼にも、感じるところがあれば、金を送った。
(P126-128)
自分を含めて俗物にできることではありませんな。
ま、せいぜい私なら「蕎麦を振舞う」くらいでしょう。蕎麦くらい自分で茹でて食べていますから、いつもより多めに茹でてそれを出せばいいのです。
とはいえ、乃木大将が「御馳走だ」と言えば、客は彼の質素な生活を知っているから納得するでしょうが、私が「御馳走だ」と言っても相手は皮肉としか受け取らないでしょう。これも徳の違いの成せる業か。
あと、煙草は吸わないからこれもクリアできる…かな?
さて、これを読んだ皆さんは、何項目クリアしているでしょうか?
ところで、パソコンのフォルダを探索してみたら、赤坂の旧乃木邸の厩舎内部の写真があったので掲載しておきます。これは私が数年前に撮影したものです。
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