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藤本ひとみ『ジャンヌ・ダルクの生涯』中公文庫

 ジャンヌ・ダルクの生涯をたどった歴史エッセイ。
 ジャンヌの出身地のドンレミ村や、ロワール、オルレアン、ランス、ルーアンと、ジャンヌにゆかりのある場所を著者は丹念に訪れていることが書かれています。旅費だけでも相当な金額がかかったんだろうなあ…。
 それはさておき、本書によると、ジャンヌは13歳の時に自宅の庭で初めて神の声を聞いたとのことで、著者もそれに倣ってジャンヌの生家の庭に立って神の声を聞こうとします。しかし幸か不幸か、神は著者に何も語りかけません。

 正午を過ぎて、私は立ち続けた。しかし、何の音沙汰もなかった。なぜジャンヌに聞こえたものが、私に聞こえないのだろう。ひょっとして神は、私を心正しくない人間だと、誤解しているのではないだろうか。あるいは、あれから六百年も経っているので、真昼の奇跡を起こすことを忘れているのかも。いやそれとも、私が十代の処女でないのが気に入らないのだろうか。しかし、そんなことで人間を差別していいのだろうか。

 神も、こんなうるさい人には声を掛けづらかったのかもしれませんな。
 ところでその後、著者は資料(裁判記録)を読み返してみると、当日ジャンヌが絶食していたことに気付き、「十三歳の育ち盛りの少女が、何も食べずに真夏の庭に立っていたのである。幻聴が聞こえても、不思議ではないかもしれない……。」と述べています。
 それも一理あるでしょう。しかし私はそれ以外にも、ジャンヌが巫女的な体質であったことや、戦時下という緊張した空気なども影響していたんじゃないかと思います。

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