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ジャック・リッチー「エミリーがいない」

あらすじ…アルバートの妻エミリーが姿を消した。エミリーのいとこのミリセントはそれを怪しむ。又、アルバートの周辺にエミリーの影がちらつき始める。

 ネタバレになるので詳細は伏せますが、我々読者がミステリを読む場合、そこに何らかの(多くの場合は殺人)事件を期待しています。しかしこの短篇作品はある意味でそれを裏切るという形でドンデン返しをやっています。
 え? 抽象的で何を言ってるかわからない? すいませんねえ、未読の人のために肝心の部分は明かせないんですよ。

【参考文献】
マーティン・H・グリーンバーグ編『新エドガー賞全集 アメリカ探偵作家クラブ傑作選(14)』早川書房

室谷克実『日韓がタブーにする半島の歴史』新潮社

 新羅の王・脱解は倭種(P28)で、その大輔の瓠公は倭人だった(P40)とか、「三世紀になっても半島の刀剣は鋳鉄だったが、列島では一歩も二歩も進んだ鍛造品が造られていた」(P48)とか、檀君神話は漢字で四百字弱しかない(P151)とか、色々と衝撃的なことが書いてあります。
 P152-153には檀君神話の原文(もちろん漢文です)が丸々引用されているので、漢文解読に自信のある方は読み下しに挑戦してみるといいかもしれません(ちなみに出典は『三国遺事』)。

 それはさておき、第四章では高句麗の将軍・乙支文徳(ウルヂムンドク)を取り上げ、彼を「“世界卑怯者列伝”に載せるべき人物」(P119)と評しています。なぜ彼が卑怯者なのかというと、偽の降伏を申し入れて隋の大軍を騙し討ちにした(薩水大捷)からとのこと。
 だがちょっと待ってほしい。戦争では敵をだますことなどよくあることで、「偽の降伏申し入れ」だって戦史には幾つか存在します。例えば三国志の赤壁の戦いでは呉軍の黄蓋がこれをやったし(しかも苦肉の計で相手を信用させるという工夫までしている)、日本でも厳島の戦いで桂元澄が陶晴賢に内応の約束をして油断させている(当然ながら謀神・毛利元就の指示によるもの)。相手が強大でまともにぶつかればこちらに勝ち目がない場合、このテの奇計を駆使するのは弱者としては当然です。
 ただし、カンニングだとか(P137)スポーツの紳士協定破りだとか(P138)となると話は別で、これらは非難されてしかるべきだと思います。戦争とは違う。

【参考文献】
室谷克実『日韓がタブーにする半島の歴史』新潮社

江戸川乱歩「鉄人Q」

あらすじ…白ひげの老人が造ったロボット「鉄人Q」が逃げ出し、幼女を誘拐する。

 巻末の解説によると、「魔法博士雲井良太の第四の事件にするつもりだったのかもしれない」(P733)とあるように最初は二十面相らしくない。例えば幼女を誘拐して身代金やお宝を取ろうとはしていないし、二十面相なら幼女の食料費を調達するためにわざわざ銀行泥棒をせずともポケットマネーで充分まかなえるはずです(この点についてはお金持ちの雲井も同じことが言える)。
 二十面相っぽさが出るのは鉄人Qが巡査に化けて上野公園の五重の塔を脱出するところあたりでしょうかね。あるいは、新橋の玉宝堂から宝石を盗むあたりでしょうか。

【参考文献】
『江戸川乱歩全集 第22巻 ぺてん師と空気男』光文社

江戸川乱歩「電人M」

あらすじ…火星人と電人Mがあらわれた!

 P284-288に、二十面相の部下たちが盗んだお宝を二十面相のもとへ持って行くシーンが描写されているのですが、それがすごい。「すばらしい真珠の首かざり」(P284)、「雪舟の絵」(P285)、「いわれのある名刀、小さい金銅の仏像、ゆびわのいっぱいはいった、うつくしい宝石箱、西洋の有名な画家の油絵など」(P288)が、たった一日のうちに二十面相のものになっています。
 いくらなんでも警備が緩すぎるだろ、どこもかしこも。誰か一人くらい捕まえろよ。

【参考文献】
『江戸川乱歩全集 第22巻 ぺてん師と空気男』光文社

江戸川乱歩「仮面の恐怖王」

あらすじ…怪人「仮面の恐怖王」があらわれた!

 今回、二十面相は京都の三十三間堂で仏像に変身しています。そこで何かを盗んだという描写はないものの、ひょっとしたらあの中の仏像の何体かを偽物とすり替えて盗み出したかもしれません(ただ盗むだけではすぐになくなったことがわかってしまいますが、偽物を置いておけば薄暗い室内のことだから気付かれにくいはず)。
 わざわざ文化財の豊富な京都まで「遠征」しておいて、ただ子供をビビらせるだけ(しかも相手は少年探偵団員ではない!)というのは考えにくいのです。

 ところで、今回は徳川埋蔵金が出てきます。それも逃走中の落盤事故という予期せぬ形で。二十面相がこれだけの宝をよく放置していたものだと不審に思ってしまいますが、ひょっとしたら前の持ち主が「いくらほっても金貨はみつから」(P130)なかったので、ここに埋蔵金はないと判断していたのかもしれません。

【参考文献】
『江戸川乱歩全集 第22巻 ぺてん師と空気男』光文社

江戸川乱歩「かいじん二十めんそう」(たのしい一年生版)

あらすじ…ある日、ポケット小僧は、洋館から少女の悲鳴が聞こえてきたので、洋館に潜入する。

 このあと色々あって、ポケット小僧は二十面相に捕まり、洋館に一室に閉じ込められるのですが…。

 しばらくすると、ぽけっとこぞうは、むっくりとおきあありました。まどからでて、となりのまどのしたへいき、なかへはいっていきました。(P616)

 え!? 窓に鉄格子とか付いてないんですか? しかも、隣の窓には鍵もかかっていないようです。いくらなんでも油断しすぎでしょ。
 ちなみにこの後、富士山や東京タワー、お台場、鎌倉の大船観音と、これらの地をさながら観光するかのごとく大捕物が展開されます。
 二十面相も往生際が悪いですねえ。どうせ捕まってもすぐに脱獄できるんだから、そこまで逃げ回らなくてもいいのに。

【参考文献】
『江戸川乱歩全集 第21巻 ふしぎな人』光文社

江戸川乱歩「かいじん二十めんそう」(たのしい二年生版)

あらすじ…二十面相が黄金の仮面を着けて登場。石むらさんの絵を盗もうとする。

 このレビュー記事では江戸川乱歩作品の『黄金仮面』に登場する黄金仮面の正体について言及しています。ご注意ください。

 黄金仮面の正体はアルセーヌ・ルパンですが、そもそも二十面相は作者(乱歩)が少年ルパンものをやりたくて創造したキャラクターだから、二十面相はルパンの属性を濃厚に受け継いでいるし、ルパンの手口を真似ることも珍しくない。
 だから二十面相が黄金仮面をかぶってもおかしくないのですが、この作品の中で仮面があんまり活かされていないのは残念なところです。例えば部下にも黄金仮面をかぶせて瞬間移動したように見せかけるとか、色々やりようがあったんじゃないでしょうか。

【参考文献】
『江戸川乱歩全集 第21巻 ふしぎな人』光文社

江戸川乱歩「ふしぎな人」

あらすじ…古い西洋館に住む小林さんが、隣家の子供(たけし君ときみ子ちゃん)と遊んでいると、明智小五郎と小林少年が警官隊をひきつれてやってくる。実は、林さんは怪人二十面相だったのだ!

 明智探偵がどうやって二十面相がいる西洋館を突き止めたのかとか、たけし君の父親が二十面相に捕らわれていたのにいつのまにか帰ってきている(救出されたとの記述なし)とか、そもそも宝石を盗み出すのに西洋館のみならず潜航艇やヘリコプターを用意しておくなど「そこまでやったら赤字だろ」といったツッコミどころがあります。
 もしも自分が子供の頃に読んだら、注意力散漫で見逃していたかもしれませんが、大人になった今ではユルい具合が目につきます。

【参考文献】
『江戸川乱歩全集 第21巻 ふしぎな人』光文社

江戸川乱歩「搭上の奇術師」

あらすじ…淡谷庄二郎の宝石を怪人四十面相が狙う。

 犯行予告の電話を受けた淡谷氏が、

「わかった。きみは予告の盗賊というわけだね。だが、いったいきみはだれた。予告するほどの勇気があるなら、名まえをいってもいいだろう。だいいち、名もなのらないというのは、礼儀ではなかろう」(P356)

 と説き、犯人はあっさり正体を明かした次第です。
 それにしても、こんなにあっさりバラしちゃっていいんだろうか? 相手が二十面相(四十面相)だと知れたら明智小五郎か小林少年が来ちゃうのに…。
 まあ、たとえ明智らの活躍でつかまっても、次の連載が始まる頃にはとっくに脱獄してるんだから別にいいか。

【参考文献】
『江戸川乱歩全集 第21巻 ふしぎな人』光文社

江戸川乱歩「夜光人間」

あらすじ…怪人「夜光人間」があらわれた!

 物語の冒頭、少年探偵団が肝試しをやっています。「暗闇なんかこわがらないようにするために」(P193)などというもっともらしい理由を述べてはいますが、子供たちにとっては娯楽なんでしょうねえ。
 で、そこに夜光人間が登場して子供たちを驚かせているのですが…こんなことをするのはあいつだな、きっと。

【参考文献】
『江戸川乱歩全集 第21巻 ふしぎな人』光文社

和田竜『小太郎の左腕』小学館

あらすじ…1556年。少年・小太郎はシモ=ヘイヘ並みの凄腕スナイパーだった! 戸沢家と児玉家が争う中、戸沢家の林半右衛門はその少年を合戦に参加させるべく…。

 『のぼうの城』は巻末に参考文献の数々が列記してあり、史実を基に書いているのがわかるのですが、今作『小太郎の左腕』はフィクションとなっています。そういえば物語の舞台となる場所がどこの国なのかも明らかにされていなかったような気がしますな。
 ちなみにインターネットで調べてみると、戸沢氏という戦国大名が東北地方に実在していたことがわかりました。しかもこの戸沢氏は本作と同様、国人から戦国大名になっています。
 だとすると、物語の舞台も大体そのあたりじゃないかと思いながら読み進めてみるといいかもしれません。

【参考文献】
和田竜『小太郎の左腕』小学館

【関連記事】
和田竜『のぼうの城』

三島由紀夫「復讐」

 玄武という老人の影におびえる一家の物語。

 どうにも歪(いびつ)な感じのする家族だな…と思いながら読み進めていると、最後の方で倉谷玄武の脅迫状が登場して、なぜ彼らがおびえているのかが明らかになります。
 その中に「俺の愛する息子に戦犯の罪をなすりつけ」(P349)とあり、このあたりは終戦からさほど経っていないことを感じさせます。

【参考文献】
紀田順一郎/東雅夫=編『日本怪奇小説傑作集2』創元社

«城昌幸「人花」

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